【イベントダイジェスト】『アプリケーションが主役になった時Web3が花開く!』Web3 Future 2023 パネル⑦ - Web3起業家たちの考える業界のイマとミライ

株式会社Ginco

【イベントダイジェスト】『アプリケーションが主役になった時Web3が花開く!』Web3 Future 2023 パネル⑦ -  Web3起業家たちの考える業界のイマとミライ

はじめに

これまでブロックチェーン・Web3業界では日進月歩で様々な技術開発が進められてきた。そのお陰でインフラ面は整いつつあり、あとはマス層に届く瞬間がいつ到来するかと言われる。しかしそれをただ待ち侘びていればその日がやってくるわけではない。今考えられるミッシングパーツとは一体何なのか。業界の最前線に立つ人達は今どのような課題認識を持っているのか。今回はフィンテック協会理事の三輪 純平氏をモデレータに、Astar Network CEOの渡辺 創太氏、Eight Roads Ventures Japan の北澤 直氏、Ginco代表取締役の森川 夢佑斗氏の4人が語り合った。

※本記事は、弊社Gincoが2023年6月16日に東京八重洲ミッドタウンで開催した「Web3Future 2023」の講演内容を基に再構成したものです。

目次

1.今吹いているのは、向かい風?追い風?
2.Web3のマスアダプションに立ちはだかる壁
3.ウォレットの改良に立ちはだかる壁
4.プロトコルとアプリの共栄を目指すために
5.Web3業界の2025年、2030年の展望と希望

1.今吹いているのは、向かい風?追い風?

フィンテック協会で理事を務めWeb3に長く従事する三輪氏は冒頭、2023年6月に米国証券取引委員会(SEC)が、数多くの暗号資産が証券に該当する可能性があるとして取引所やプロトコルなどへの規制を強化した件を話題に取り上げた。そして、これが日本にとって「逆風」か「追い風」か、登壇者それぞれの見解を聞くところから議論はスタートした。

口火を切ったのは5年間Coinbaseの日本代表を務めた経験を持つ北澤氏だ。北澤氏は今年4月からCoinbaseからベンチャーキャピタルへ籍を移し、投資を通じてWeb3を支援する立場から今の状況を「まさに日本にとってのチャンスだ」と語る。

規制強化が噂される米国の実態は、実のところ「暗中模索」というのが正しい、と北澤氏はいう。当局の方針も明文化されておらず事業者の多くは困惑している。

また、ヨーロッパではEU全体で暗号資産に関する法整備は進んでいるが、Web3に関する方針は示されているわけではない。むしろ全面的に推進するスタンスの国は少数派だという。

こうした諸外国の動きと比較すると、日本は国を挙げてWeb3を盛り上げよう、という気運が高まっている。VC業界でも規制が明確な日本でビジネスをしたい、という声も挙がっているほどだという。

続いて、国内で暗号資産のウォレット開発を進める森川氏も、今の日本の市場をチャンスと捉えるべきだと語った。

森川氏によると、日本はこれまで早期に大規模なハッキング事件を経験したこともあり、暗号資産の事業者側は規制や法令遵守を重視しながら事業を進めてきたという。また取引所は資金管理で求められる安全面での課題をウォレット技術によって克服し、規制当局と協調的に進めてきた。

最近、香港でも日本に倣って暗号資産事業者にコールドウォレットでの管理を義務付けられたが、今後これら技術はさらに世界で広まっていく可能性がある。この点からも森川氏は今を好機と捉えている、と説明した。

最後に、早期から暗号資産業界に携わり日本発のパブリックブロックチェーン「Astar Network」をシンガポールで立ち上げてきた渡辺氏も日本が今チャンスを迎えていることに同意しつつ、今の規制動向について自身の見解を語った。

渡辺氏は、かつて中国で暗号資産が禁止された事例を引き合いに出し、これまで幾度となくこの業界が危機を迎えたことに触れた。しかし、それでも暗号資産は無くなることなく拡大してきたことから、今回の米国の件も乗り越えられる確信がある、と説明した。

だからこそ、米国の規制環境が整い180度状況が変わることも見越して考えるべきであり、豊富な人材を擁し一枚岩ではない米国が再び主導権を握る前に、日本がキラーユースケースを作りマスアダプションを果たす必要性がある、と渡辺氏は語った。

2.Web3のマスアダプションに立ちはだかる壁

続いて三輪氏は、今後Web3のユースケースがたくさん創出されてマス層に広まったとしても、それが企業などを中心に中央集権的に展開されたなら、どこにWeb3の意義があるのかという質問を登壇者に投げかけた。

この質問に対して、分散的な技術がニーズに応えながら中央集権化していくことは歴史の必定でもあり、分散化か中央集権化か、0か1ではなくグラデーションで考えるべきだ、と北澤氏は答えた。その理由をインターネットが辿ってきた歴史からこう説明する。

「インターネットは登場当初、誰にも所有されない共有財産として注目を集めた。しかし、やがてSNSやECサイトなどインターネットのユースケースが創られていく中で、そのニーズに応えてきたのがGAFAなどのビッグテックだ。よって、Web2を一概に否定するのではなく、グラデーションで考える必要がある。ビットコインにおいても、最初期のユーザーはP2P取引や秘密鍵管理を自身で行ってきたが、次第にその不便さを解消するためのニーズが生まれた。そこでCoinbaseのような企業が取引サービスやカストディアルウォレットなどを展開してきた経緯がある。このように、その時その時に求められるサービスを企業が開発することは当然のことだ。(北澤氏)」

そして北澤氏は今後Web3のユースケースが創出されるための条件として、ブロックチェーンプロトコルの『インビジビリティ(目に見えないようになること、不可視性)』を挙げた。例えばLINEというサービスを使うユーザーの大半は、LINEのインフラやシステムに自覚的ではない。Web3アプリでもプロトコルが目立たなくなってこそマスアダプションが起きるだろう、と語った。

この北澤氏の考えについて実際にプロトコル運営をする渡辺氏は賛同しつつ、今後描くAstar Networkのビジョンに言及した。

「現在レイヤー1、2、ノード、インデクサー、ウォレットなど、ブロックチェーンやその周辺の技術はほぼ出揃っているが、それら技術同士を統合するような開発面でのサポートは十分とは言えない。例えば開発の効率性を高めるSDK(開発キット)や、UI・UXの改善に繋がるAPI機能を備えることで、より良いアプリケーションの開発が可能になる。Astarは『Startale Labs』を立ち上げてこの課題に取り組み、5年後にはプロトコルではなくアプリが主役になる時代を見据えている。(渡辺氏)」

また、渡辺氏は業界のもう1つの課題として、リアルアセット(現実の資産)とブロックチェーンを結び付ける技術が十分に普及していないことを挙げた。

今後、例えば株式や不動産など既存金融で扱われてきた資産がトークン化されるという。これによってこれらの資産が暗号資産と同じように24時間365日取引が可能になるそうだ。市場規模が109兆ドルとも言われるこの「リアルアセット市場」と、現在1兆ドル規模の「クリプト市場」が融合するとWeb3業界は一変する、と渡辺氏は語った。

しかし、この2つの市場を結び付けるために必要なのが、その取引の決済手段となる「ステーブルコイン」、そしてそれを日常的に管理するための「ウォレット」だという。

3.ウォレットの改良に立ちはだかる壁

そこで三輪氏は、このマスアダプションの鍵を握るであろう「ウォレット」に長く携わってきた森川氏に、今後のウォレットがどうあるべきかを聞いた。

森川氏は現在のウォレットの抱える課題を説明するために、かつて大ブームになった「STEPN」という歩いてトークンを稼げるアプリを例にあげた。STEPNはブーム時に暗号資産に触れてこなかった層にも広まるとの期待を集めたが、実際にはその手前で失速してしまった。その一因として森川氏は「ウォレットの扱いにくさ」を挙げた。

例えば、アプリ内で使用するNFTスニーカーを購入したり、そこで稼いだトークンを移動したりするプロセスは、新規ユーザーでも誰でも迷わずに使えるものが望ましい。そのようなシンプルなユーザー体験を実現するには、先ほど渡辺氏も触れたように「ウォレット」を中心としたインフラ周りの機能が統合される必要があるとのことだ。

そしてもう1つ、森川氏はウォレットがユースケースの普及にも影響する点についても説明する。

「今後トークン化されたリアルアセットが普及するためには、少なくとも世の中の60%から70%の人が資産を扱えるようにならなければいけない。いつまでもリテラシーの高い10%の層のみがトークンを扱うようではユースケースの拡張は難しい。そこで、例えばログインパスワードのみで使えるくらいの手軽さと安全面をしっかり兼ね備えたウォレットがあれば、Web3の経済規模はおのずと拡大されていくだろう。(森川氏)」

そこで三輪氏は、北澤氏にもウォレットの現状やその他にどんな課題があるかを尋ねた。

北澤氏はウォレットの現状を、利便性と安全性を両立させようと目指してはいるが、実際に普及しているもののほとんどのものがトレードオフの課題に直面していると説明した。

また北澤氏は、現在FATF(金融活動作業部会)がマネーロンダリング防止目的で推進するトラベルルールについても言及した。このルールは現在日本を含め世界各国の暗号資産を扱う事業者への適用が進んでいるが、今後は自己管理型ウォレットに対しても適用されるかもしれない、と語った。

では、これらウォレットの課題を踏まえると、取引所がホストするウォレット、自己管理型のウォレットなど、現在あるウォレットの中でいったいどれが最適解なのか。三輪氏が森川氏に聞いた。

森川氏は、現状は用途次第で最適解が異なるだろう、と語った。その理由を以下のように説明する。

「C向けのアプリをローンチした創業当初は自己管理型ウォレットが理想的だと考えていたが、誰もがシードフレーズを安全に管理できるとは限らない。一方で、NFTマーケットプレイスやDeFi(分散型金融)サービスへの接続にはメタマスクなどの自己主権型ウォレットが必須だ。

しかし、暗号資産取引所のウォレットからこれらのサービスに接続でき、かつ安全性も両立できるウォレットは実現可能だ。技術面での課題が克服されるのは時間の問題であり、トレードオフを乗り越えたウォレットがいつか実現するだろう。(森川氏)」

4.プロトコルとアプリの共栄を目指すために

続いて三輪氏は、これまでWeb3市場ではアプリが盛衰を繰り返す一方で、プロトコル側が価値を作り富んでいく構造が根強い、いわゆる「ファットプロトコル理論」について触れる。

そしてこの理論やこれまでの背景を踏まえパブリックブロックチェーンであるAstarがどのようにマスアダプションに挑もうとしているかを渡辺氏に尋ねた。渡辺氏は次のように答えた。

「いつまでもプロトコルが一番目立つ状況であってはいけない。今までプロトコルは処理速度や手数料の安さを競ってきたが、ガス代がすでに1円以下で実現できている今その議論は不要だ。となれば、プロトコルはより多くの人に喜ばれる、使いやすいアプリの開発に取り組むべきだろう。

トランジスタラジオで有名になったSONYはトランジスタ自体を作っていたわけではない。ラジオやコンテンツに注力したことで功を奏した。TOYOTAも車のエンジンよりオペレーションや走行距離などの性能を追求して世界でも広く受け入れられた。だからこそ日本はアプリ開発で本領が発揮されるだろう。(渡辺氏)」

そこで森川氏はプロトコルとアプリの共生関係を築くためにどうすればよいか、次のような意見を述べた。

「ファットプロトコル理論の通りであれば、現状はプロトコルの方がアプリケーションよりも『果実(報酬)』を多く得やすくなっている。しかし、もしその果実をアプリケーションと適切に分け合えたらアプリが一層普及しやすくなるのではないか。今はそのようなプロトコルを評価する指標は無いが、何かしらでそれを可視化できたなら、アプリケーション側はより良い関係を築こうとしているプロトコルを選べる。これによって業界がより良い方向に発展できるのではないか。(森川氏)」

これについて渡辺氏も、今後確実にアプリケーションが伸びないと問題になる、と意識を揃え、この可視化の提案について自身の意見を語った。

「トークンの時価総額の観点で見れば、プロトコルが強くアプリケーションが弱いのは事実だ。しかしこの比較は「国(プロトコル)」と「企業(アプリケーション)」を比較しているようなものだ。時価総額だけではなく、プロトコルが与えている経済的な価値も含めた測り方の指標があれば歓迎したい。(渡辺氏)」

5.Web3業界の2025年、2030年の展望と希望

セッションは終わりに近づき、三輪氏は最後に登壇者一人一人に「2025年」あるいは「2030年」というスパンでWeb3がどうなっていくか、どうあってほしいかを聞いた。

森川氏はこう語った。

「2030年には少なくともプロトコルについての議論は終わっていなければいけないと思っている。アプリ開発ではUI・UXの課題を乗り越えて、アプリの良し悪しをユーザーが評価していることが理想だ。そしてその開発現場はこれまでのような企業主体ではなく、スタートアップが大半を占めるような活気溢れた未来であってほしい。

今後日本ではステーブルコインが基盤となりブロックチェーンがリアルな世界と結合していくだろう。今はその基盤づくりの段階にあるため、プロトコルと共にウォレットが役割を果たせるよう前進していきたい。(森川氏)」

次に北澤氏は、5年前に自身が関わったCoinbaseが日本から撤退したことは予想ができなかった、とユーモアを交えながら直近の2025年についてのビジョンを語った。

「すでに法律も整いつつある日本であれば、この2年以内にゲーム、エンタメ、知的財産(IP)分野での社会実装は十分実現が可能だろう。

ただその際、Web3を取り入れたことでただのコスト増になってしまった、という事態に陥ってはならない。Web3が人々に必要とされ社会に良い影響を及ぼせるものとして浸透してほしい。このようなWeb3技術と実体経済が真に結び付いたユースケースが日本から始まった、と言われたら素晴らしいことだ。(北澤氏)」

最後に渡辺氏は、「2030年には私がこの『Web3Future』に呼ばれていないことが理想だ。それが2025年なら大成功だ」と聴衆の笑いを取りつつ次のように語った。

「2030年にはWeb3のプロダクトが人々の行動を変容できるものとして社会に融け込んでいるだろう。

そのために、2025年までには日本でWeb3産業が育ち、アメリカや中国よりもユースケースを多く生み出しておきたい。やがてコインマーケットキャップ時価総額上位50位のうち、日本人の起業家によるプロダクトが10個を占めるようになった。このような結果ベースで語れる未来を描いている。(渡辺氏)」

まとめ

今回は『 Web3起業家たちの考える業界のイマとミライ』というテーマのもとでセッションを展開した。

早期から暗号資産取引所に関わった知見からユーザーに近い視点でWeb3マスアダプションへの課題を語った北澤氏。日本の起業家と大企業が世界で通用するプロダクトを開発するために今後プロトコルのあるべき姿を伝え続けた渡辺氏。Web3のユースケース・インフラ開発、規制対応すべての鍵を握るウォレットの重要性を示しつつ業界全体の調和を目指した森川氏。

Web3業界の土台づくりに徹するプレイヤーが日本のポテンシャルを引き出したいという熱意が節々に感じられたセッションとなった。

【Web3Future 2023・コンテンツ一覧】

基調講演『自民党web3PT座長・平将明氏』
パネル1『日本再興に向けた国家戦略としてのWeb3』
パネル2『Web3が生み出す新しい地方自治と社会・経済 powered by POTLUCK FES』
パネル3『トークナイゼーションがもたらす金融と生活の融合』
パネル4『ゲーム大国日本はGameFiの中心地になれるか?』
パネル5『金融事業者はWeb3の波をどう読むか』
パネル6『大企業が考えるWeb3のポテンシャルと取り組む意義』
パネル7『Web3起業家たちの考える業界のイマとミライ』(当記事)