【イベントダイジェスト】『ステークホルダーの共創で進化する自治体モデル』Web3 Future 2023 パネル② - Web3が生み出す新しい地方自治と社会・経済 powered by POTLUCK FES

株式会社Ginco

【イベントダイジェスト】『ステークホルダーの共創で進化する自治体モデル』Web3 Future 2023 パネル② - Web3が生み出す新しい地方自治と社会・経済 powered by POTLUCK FES

はじめに

人口減少によって過疎化が進む日本の地方自治体で、近年ブロックチェーンやWeb3の仕組みを活用した新たな自治の在り方が注目を集めている。平成の大合併以降、人口減少を受けて市町村合併などコミュニティを大きくする方法が選ばれてきた。しかし、Web3の活用可能性を探る際には「コミュニティを小さく運営する」「自治体を市民に開放する」というこれまでと真逆の試みが重要になるという。地方再興に取り組む有識者たちは、どのようにWeb3を捉え、実際に活用しているのか。NewsPicksリージョンの呉 琢磨氏をモデレータに、奈良県三宅町町長の森田 浩司氏、Crypto Villageの林 篤志氏、衆議院議員の小林 史明氏の4人が語り合った。

※本記事は、弊社Gincoが2023年6月16日に東京八重洲ミッドタウンで開催した「Web3Future 2023」の講演内容を基に再構成したものです。

目次

1.山古志の事例に見る新しい地方自治の在り方とは?
2.DAO化が功を奏した「三宅町の公民館」と「Park-PFI」
3.企業が公共サービスを「共助」に変える
4.これからの地方自治運営に求められる3つの「Ⅾ」

1.山古志の事例に見る新しい地方自治の在り方とは?

セッションは最初に新潟県「山古志」という人口800人以下の限界集落にWeb3の技術を取り入れた林氏の取り組み紹介から始まった。

山古志地域の限界化を脱却するために林氏が山古志の住民と話し合い発案したのが、エストニアの「e-レジデンシー」から着想を得た「デジタル住民票」という概念だ。これは山古志の特徴でもある錦鯉をモチーフにしたNFTを販売し、その所有者にデジタル村民としての権利を付与する、というものだ。結果、世界中から1000人のデジタル村民が参画した。

錦鯉NFTはコミュニティとつながる権利が付与されるなどいくつか機能をもつが、一番の役割は「アイデンティティの象徴」にあるという。それが機能しているからこそNFT発行からの1年間でデジタル村民の2割程度が実際に山古志を訪れ「おかえり」「ただいま」というリアルな関わりにまで発展できた、と語った。

とはいえ、所詮デジタル空間でリアルとはつながらないのでは、という疑問に対し林氏は「我々はデジタルとリアルの融合を目指している。デジタル村民の持つスキルとリアル村民の持つ伝統やアイデンティティが重なることで地域を存続できる熱源が生まれる。これがいま山古志で起きていることだ」と語った。

この林氏の山古志でのWeb3活用事例を、呉氏は「これまでの『人口』という概念とは異なる『関係人口(その地域に住んでいないが関わりを持つ人の数)』を増やしている好例だ」と補足した。

2.DAO化が功を奏した「三宅町の公民館」と「Park-PFI」

続いて、全国で2番目に小さい町である奈良県三宅町町長の森田氏が、三宅町での自治体運営にDAOの仕組みを導入した事例を紹介した。

三宅町では「公民館を皆で運営する」という新たな方法を取り入れている。昨年役場の前に学童やコワーキングスペース、子育て支援センターなどの用途も併せ持った多用途の公共施設を作った。今までの公共施設は行政が使い方を決めていたが、やがて誰も使わなくなってしまった。そこで住民を交えて運営ルールや予算配分を決める、というこれまでにない仕組みを取り入れた。

行政側は施設の人件費と管理費を負担してそれ以外を住民に委ねる。例えばイベントを自分たちで主催し参加費などを徴収して収益を上げてよいルールにしたことはリアルの場をDAO化したものだ、と説明した。

この三宅町の公共施設の事例に加えて、これまで行政手続きのデジタル化を推進してきた小林氏が自身の立場で取り組んできた新たな公民館の運営方法を紹介する。

公民館は今や高齢者が使うものというイメージが定着したが、その公民館施設にWi-Fiや設備を充実させネット予約で24時間使えるようにすることで、若者など多くの人が使用できる公共スペースに生まれ変わっているという。さらにこのような行政の取り組みに「三宅町のようなDAOの運営方法を取り入れたら面白い」と新たな公民館の在り方を提示した。

また小林氏はもう1つ、今全国に広まっている行政の取り組みとして「Park-PFI(公募設置管理制度)」を紹介した。これは規制緩和をして公園の中にカフェやシェアオフィスを作れるようにして、その収益で公園の草刈りや維持管理費をまかなう、という新しい公園の運営方法だ。今まさに官と民で協力して公共サービスや公共施設を運営する事例を増やそうとしている。

森田氏は、地方自治体が抱える人口減少による「税収減少」というもう1つの問題を取り上げる。今財源の8割を国からの交付金に頼っている自治体たちがさらに交付金を減らされればどうなるか。これまでの行政では公民館を閉めるなどサービスの廃止や縮小で対応してきたわけだが、森田氏は「これはやるべきではない」と主張した。

3.企業が公共サービスを「共助」に変える

森田氏は前述の通り公共施設の運営を通して住民の方に「稼ぐこと」を推奨してきた。それだけでなくこれまで当たり前だった無料の公共サービスも見直した。これらの施策を行った背景には将来的な税収への危機感があったという。そしてこのようなアプローチによって、多くの住民の方に当事者意識が生まれ、行政の在り方を議論し意思決定に関わってもらえるようになる。強い基盤を自治体に築くことも期待できる、と語った。

さらに林氏は今の日本の自治の根本問題を提起する。これまで自治体は人口増加、経済成長を前提に運営してきた。しかし人口減少、少子化、高齢化、核家族化で経済が成熟フェーズに入った今、モデルの転換が求められている。今まで当たり前は当たり前ではなくなる、という前提に立ち自治体にどの機能を残すか、デザインを根本から変える必要があると語った。

そこで林氏は現在奈良県の旧・月ヶ瀬村や三重県の尾鷲市などで取り組んでいる「LOCAL COOP」という先進事例を引き合いに出した。これは人や企業が直接地方自治体に参画をして、自治そのものを運営する仕組みだ。

例えば、ゴミ収集を行政が行わず企業と住民の細やかな分別でゴミを徹底的に減らす。また、これまで自治体が電力会社に支払ってきた膨大な電気料金はマイクログリット(小規模電力網)に切り替え自給することで無駄を省く。このような事例が多く生まれている。

「これまで我々は『金融資本』に頼ってきたが、Web3により地方ではカーボンクレジット、生物多様性クレジットなどの『自然資本』を使って外貨を稼げる可能性が生まれている。また地方には『社会関係資本』というコミュニティの強さもある。住民の結束が強いほど行政に依存しない新しい自治の形を作れる。これにより万一経済や国が傾いたとしても運営できるサステイナブルな仕組み、災害にも強い基盤を作れる。このような「共助」を理念の基盤とした自治体モデルに切り替えていくべきだろう(林氏)」

これを受け、小林氏も行政の課題を民間で解決する事例は「旧〇〇村」「〇〇町」など小さな規模で取り組んでいることがポイントだ。いきなり「市」など大きな枠組みから変えるのではなく、昔の商工会のコミュニティなどと手を組み、そこを足掛かりに拡大させる方がよい」と付け加えた。

そしてコミュニティ規模が縮小するのに呼応して国の役割も変化するという。小林氏は政府のデジタル戦略について以下のように語った。

「これから細かくなっていく自治体とコミュニティの負担をなるべく減らすためにシステムやインフラは共通のクラウドで効率化させるべきだろう。これを提供するのが政府の役割となっていく(小林氏)」

また小林氏は、今後自治体同士で移民やデジタル住民の取り合いが起きることを想定し、「世界を渡り歩くデジタルノマドがその町の地価を吊り上げた結果、現地のコミュニティが離散したキプロスの事例の二の舞とならないようにしたい。そのためには地域が閉鎖的になるのではなくブロックチェーンやWeb3を活用して徹底的に開放し続けることこそが地域を守ることにつながる」と将来を見据えた。

4.これからの地方自治運営に求められる3つの「Ⅾ」

これからの地方自治は「デザイン」「デジタル」「ダイバーシティ」この3つの「D」がキーワードになる、と小林氏が説明した。

林氏はデジタルを取り入れ自治のデザインを変えることが、やがて「稼ぐために働いてきた」人々が「生きるために働く」という労働概念のシフトにつながることを期待した。

一方森田氏は、これからは出身地以外に第二の故郷のような場所を持つ人が増えることを期待した。そこでは今いる住民とデジタルで繋がる人たちとがお互いに認め合い失敗を受け入れる、という「ダイバーシティ」がカギを握る、という。それぞれの立場で小林氏の語る3つの「D」に賛同した。

最後に呉氏は今回の議論を「住民、企業、行政など様々なステークホルダーと地域運営を共創していくことがこれからの新しい地方自治の姿だ」という言葉で締めくくった。

まとめ

今回は『Web3が生み出す新しい地方自治と社会・経済』というテーマのもと異なる立場の三者でセッションを展開した。

町長という立場から住民に権限委譲して公共施設をDAO化することで、自治体を開かれたものにしようとする森田氏。山古志での取り組み事例からNFTの可能性を示し、さらに企業などを自治体に呼び込み自治のモデル転換に挑戦する林氏。Web3とブロックチェーンなどテクノロジーを使って地方の小さなコミュニティを活気づけながら、次代に向け国の機能のアップデートを目指す小林氏。

異なるそれぞれの立場からテクノロジーを活用した新たな自治の在り方が語られた議論となった。

【Web3Future 2023・コンテンツ一覧】

基調講演『自民党web3PT座長・平将明氏』
パネル1『日本再興に向けた国家戦略としてのWeb3』
パネル2『Web3が生み出す新しい地方自治と社会・経済 powered by POTLUCK FES』(当記事)
パネル3『トークナイゼーションがもたらす金融と生活の融合』
パネル4『ゲーム大国日本はGameFiの中心地になれるか?』
パネル5『金融事業者はWeb3の波をどう読むか』
パネル6『大企業が考えるWeb3のポテンシャルと取り組む意義』
パネル7『Web3起業家たちの考える業界のイマとミライ』