パブリックチェーンxカーボンクレジットというSOMPOの挑戦。Web3ビジネスの総合デベロッパーとしてGincoが選ばれた理由とは?

株式会社Ginco

パブリックチェーンxカーボンクレジットというSOMPOの挑戦。Web3ビジネスの総合デベロッパーとしてGincoが選ばれた理由とは?
インタビュー協力
SOMPO Light Vortex株式会社
業界
金融
プロジェクト内容
国内損害保険会社の中でもWeb3・ブロックチェーンに先進的に取り組むSOMPO Light Vortexにおける、ブロックチェーンを用いたカーボンクレジット発行プロジェクトに対するコンサルティング、新サービスの立ち上げ支援
導入サービス
プロフェッショナルサービス

国内損害保険会社の中でもWeb3・ブロックチェーンに先進的に取り組むSOMPO Light Vortex(以下、SOMPO LV)。Gincoは同社におけるブロックチェーンを用いたカーボンクレジット発行プロジェクトに対するコンサルティング、新サービスの立ち上げ支援を実施しました。

プロジェクトの中でGincoは同社にどのような価値をもたらしたのか。同社で本プロジェクトを推進するSOMPO LV執行役員・事業統括部部長の上原 高志氏と、シニアマネジャーの能登谷 寛氏に聞きました。(インタビュー実施日:2023年12月)

インタビュー協力

上原 高志さま
SOMPO Light Vortex株式会社 執行役員・事業統括部部長

95年三和銀行(現三菱UFJ銀行)入行。調査部、企画部を経て法人企画部。その後、電子債権事業の日本初の事業化に成功。英国留学を経て、Startup支援・投資に携わる一方、16年MUFGイノベーション・ラボ設立。翌年、同ラボをスピンオフしJapan Digital Design設立、CEOとして組織リード。21年4月よりSOMPOホールディングスにて新事業、投資戦略を担当。


能登谷 寛さま
SOMPO Light Vortex株式会社 シニアマネジャー

大学卒業後三井不動産に入社し、2016年からCVCファンド運用とオープンイノベーション活動に従事。2022年にSOMPO LVに入社し、新規事業開発およびスタートアップ投資事業を担当。

1.カーボンクレジットはパブリックブロックチェーンの強みが活きる最適なユースケース

ーーまず最初に、SOMPO LVがカーボンクレジットに関心を持ち、今回のプロジェクトに乗り出した理由について教えてください。

上原氏: 損害保険会社はこれまで、事故や災害など自助では対応できない有事に対して保険加入者間で資金を拠出し合い共助する、という仕組みを仲介し調整する役割を担ってきました。

近年では、集中豪雨や干ばつなど気候災害が頻発しておりますが、自然災害などのリスクそのものが増大すると、保険加入者の負担も増大してしまいます。

こうした危機意識がカーボンニュートラル社会の実現を目指す損害保険会社のモチベーションとなっています。今回取り組むカーボンクレジットは、こうしたカーボンニュートラル社会に向けて、多様なステークホルダー間の利害関係を調整するツールとして注目を集めています。

ところが、ご承知の通り森林資源は年月をかけて育むものであり簡単には増産できません。そのため森林資源による炭素削減を原資とするカーボンクレジットもおいそれと供給量を急激に増やすことができません。にもかかわらず、近年では企業がESG経営やIRのためにカーボンニュートラルを志向し、カーボンクレジットへの需要が増加傾向にあります。

つまり、今後カーボンクレジット市場は限定的な供給に対して深刻な需要過多に陥ることが予想されます。

こうした状況が続くと、適切に炭素削減に貢献できるかどうか不透明なものが「カーボンクレジット」とラベリングされて市場に流通してしまう懸念があります。そこで、損害保険会社が培った「リスク要因の評価・分析」という強みを活かして、この市場の発展に貢献できないか、と考えたのが本プロジェクトの出発点になります。

ーー今回のプロジェクトでは、パブリックブロックチェーンが活用されています。なぜその判断に至ったのでしょうか?

上原氏: ブロックチェーンの技術的な強みは、高いセキュリティによりデータの確からしさを担保しやすい点にあります。

一方でこの技術はデータ処理に数秒〜10分程度要するため、小口決済などのように膨大なデータを高速で処理する必要がある用途では、上記のセキュリティかネットワークの分散性のどちらか一方を犠牲にする必要があります。

これは、「セキュリティ」「スケーラビリティ(処理性能)」「分散性」のどれか二つを重視すると、他一つを妥協せざるを得ないという一般則として、「ブロックチェーンのトリレンマ」と呼ばれています。

カーボンクレジットにおいては、現実世界で行われた行為が適切に炭素削減に貢献した、という事実を証明する必要があります。そのため、ブロックチェーンのセキュリティが効果を発揮するユースケースといえます。

加えて、カーボンクレジットの取引というのは、短期間で頻繁に売買される株式や債券などの金融取引とは性質が異なります。

企業の立場から考えると、カーボンクレジットとは企業活動を通じて生じる負の影響を打ち消すための資材として位置づけられます。これは、金融取引というよりもむしろ、原材料の仕入れなどに近い性質を持つもののため、データの処理速度をそこまで追求する必要がありません。

さらに、カーボンニュートラルという地球規模の公共利益を目指すカーボンクレジットの性質を踏まえると、誰でもデータにアクセスできるオープンなパブリックブロックチェーンを情報管理の基盤にする方が適しているだろう、との判断もありました。

SOMPOグループでは、長らくブロックチェーンの有意義なユースケースを模索してきましたが、カーボンクレジットはまさに「WHY Blockchain?」という問いに答えられるユースケースだと考えています。


能登谷氏: 大企業として新規性の高い取り組みを進める上でもパブリックチェーンを選定した合理性があります。

一般的に、大企業は新規事業を検討する際、一度作った新たなシステムの維持コストが嵩むことを懸念するあまり、チャレンジングな取り組みに慎重になりがちです。

特にカーボンクレジットのような金融に近い領域では、システムや事業基盤をしっかり作る必要があり負担の肥大化・中長期での不良債権化が予想されることでハードルが高くなっているかと思います。

一方、パブリックブロックチェーンの場合はグローバルでセキュアなネットワークが自社の預かり知らぬところで維持されており、これを確からしさの拠り所、いわゆる「トラストアンカー」として利用できるため、システムの最も重い部分を外部に相乗りすることができます。

そのため、システムの不良債権化を避けなければならない大企業がチャレンジングな取り組みを行う際の懸念を軽減することができました。

2.持続可能なカーボンクレジットを実現するためにDAOとスマートコントラクトに着目

ーー今回はパブリックブロックチェーンを活用するだけに留まらず、DAO(分散型自律組織)と呼ばれる仕組みを取り入れたと聞いています。この狙いについて教えてください。

上原氏: 今の日本において「DAO」という言葉は多義的であいまいな捉えられ方をされているように感じます。

一部では「企業のようなトップダウンの命令系統とは異なるフラットな構造のコミュニティ」といった程度のふわっとしたイメージで「DAO」を認識されている方も少なくありません。

他方、私たちはかなりプラクティカルに「DAO」というキーワードを捉えており、「スマートコントラクトを用いることで、利害調整と意思決定を効率化した組織」と認識しています。

この認識はどちらかというと、ブロックチェーン・Web3に長らく関わってきたエンジニアたちの考え方に近いのかもしれません。

カーボンクレジットというのは、品質を証明するために炭素削減量などの指標について定期的な審査や認証が必要なものであり、監査会社など第三者機関も携わります。そのため、多様なステークホルダーの関与するプロセスをどれだけ公正かつ効率的に行うか、という点をシビアに問う必要があります。

こうしたプロセスの公正さと効率性を高めるために目をつけたのがDAOとスマートコントラクトです。


能登谷氏: スマートコントラクトとは、特定の手続きルールを定め、ルールに基づく利益分配などの執行行為をブロックチェーン上で自動化する仕組みです。

DAOでは、このスマートコントラクトを用いることで組織を運営します。組織運営の基本は特定の目的を実現するために行われた貢献に対する公正な利益分配ですから、この分配をスマートコントラクトとトークンを用いた決議・投票によって実現しようという考え方です。

本プロジェクトでは、カーボンクレジットの品質保証に関わるプロセスをスマートコントラクト化することにチャレンジしました。また、このプロセスに関わるステークホルダーにガバナンストークンを保有してもらいます。

ガバナンストークンとは、DAOの組織運営に貢献する見返りとして、組織運営上の意思決定権を中心に様々な権利が付属するタイプのトークンです。

カーボンクレジットの発行プロセスに関わるガバナンストークンには、投票や決議など組織運営のためのツールとしての役割だけでなく、品質保証に関わるステークホルダーへのインセンティブとしての役割があります。

例えば、先程説明したように、カーボンクレジット市場は構造的に供給不足/需要過多に陥りやすい傾向があり、品質が保証された良質なカーボンクレジットへのニーズはさらに加熱すると想定されます。そこで、良質なカーボンクレジットの優先購入権を初期からプロジェクトに参画してくれたガバナンストークン保有企業に付与していくといったイメージです。

こうすることで、本当にカーボンクレジットを必要としている企業にそれらを供給し、投機的なプレイヤーのプレゼンスを相対的に下げることにも繋がります。

ーーガバナンストークンを用いたDAOの場合、特定の事業者が主導する場合と異なりプロジェクト全体の推進力が落ちるのでは?といった懸念もあがったかと思います。あえてDAOを用いる狙いをもう少し詳しく伺いたいです。

能登谷氏: カーボンニュートラルという地球規模の課題に取り組む以上、自社だけで出来ることには限界があります。

この目的を達成していくためには、ダイナミックなトレンドを生み出すことだけでなく、多様なステークホルダーが関わる強靭なエコシステムを作っていくことと、そのエコシステムを中長期的に持続可能にしていくことを意識しなくてはなりません。

極論すれば、自社がたとえカーボンクレジット事業から撤退したとしても持続可能な仕組みを構築するべきであり、健全な取引環境を作るための相互監視とインセンティブを設計するためにDAOを活用しています。

例えば、事業会社が公益性の高い目的を追求する場合に、自社の事業としてではなくNPOや一般社団法人などの形式で、組織を外部化するケースがあります。DAOはそうした組織をデジタルネイティブに構築することで、より効率的かつ経済合理的に運営していくような発想とも捉えられます。


上原氏: 私自身、ブロックチェーンとスマートコントラクトの技術が誕生してから、この技術がもたらす社会的影響を様々な有識者のみなさんと議論してきました。

その中で、最も危機感を感じていたのが、損害保険会社の事業そのものがブロックチェーンによって淘汰される可能性の高い「仲介者」的なポジションである、という点です。

他方、ブロックチェーンという技術においては、現実世界とデジタルデータとの架け橋=オラクルという役割が必要不可欠とされています。

こうした背景を踏まえ、SOMPOグループが社会に提供できる本質的価値は「プロセスの仲介」ではなく、「リスク要因の評価・分析」にあると考え、その役割をオープンに発揮できるようにすることを重視しました。

3.プロジェクトを推進するクイックな対応と、それを支える安定したプロダクト

ーー本プロジェクトのパートナーに、私たちGincoを選んでいただいた理由をお聞かせください。

能登谷氏: カーボンクレジットをパブリックブロックチェーン上で扱う以上、それらは資産としての性質を有します。資産である以上は管理が問われますし、管理のためのシステムやツールが必要になります。

その代表例が「ウォレット」です。ウォレットはパブリックブロックチェーン上の資産を安心・安全に利用するためのインターフェースですが、この開発や運用のノウハウを持っている企業はグローバルで見ても数えるほどです。

これに加え、ブロックチェーンノードやスマートコントラクトなど、プロジェクトで関わる技術領域を網羅的にサポートできる企業でなければ、それぞれの不明点を潰しこむことができません。

さらに、弊社も金融機関である以上、相応の実績を持つ企業であることを必須条件と考えていました。

こうした諸処の条件を踏まえながら適切なケイパビリティを有する企業は、国内でほぼGincoさんしかいなかった、というのが実情です(笑)

ーープロジェクトを通してGincoの提供価値を実感していただくことはできたでしょうか?

上原氏: 非常に献身的にプロジェクトに貢献してもらったと思っています。専門的な知見や経験、技術力があることは期待通りでしたが、それ以上にプロジェクトを建設的に前進させようとするスタンスと対応のクイックネスに驚きました。

Gincoさんにはシステムの要件定義の段階から寄り添って頂きましたが、意見を交わす度に決めるべき内容が明確になり決定事項がサクサク決まりましたね。その場で決めきれない場合でも週明けすぐにご回答頂けたこともあり、ニーズ検証に関する顧客ヒアリングが追いつかないこともありました(笑)

カーボンクレジットの実証実験では当初数週間かけて結論を出すと見通していましたが、予定よりも非常にスムーズに終えられました。

PoCでは想定外の不具合に直面することもあります。こうした事態が生じた場合、検証や対応に多くの時間を要したりすることも珍しくありません。しかし、今回のプロジェクトでは我々とGincoのエンジニアが一堂に会したことで、仕様や理解すべき人が全員理解でき、的確な判断を重ねていくことができました。これが全体の加速感を作ったのだと認識しています。


能登谷氏: オープンクエスチョンではなく意思決定しやすい選択肢を都度提示してくれる進め方もスピードアップに繋がっていたと思います。ゼロベースで話し合いをすると冗長に時間を費やしがちですが、やりとりしながら概念整理される話し合いは非常にやりやすかったです。

また他領域での知見も共有してくれるので発展的にビジネス構造を考える視点を持つことができ、自身のスキルアップにもつながり有意義でした。


上原氏: 私自身が難題だと分かりながら投げかけた要望も多数ありましたが、エンジニアの方が「この方法で実現できなくはないです」といった熱量で説明し返してくれるので、話を聞いているうちに「後回しにすべき事案だ」と自分で納得してしまう、そんな場面もありました(笑)スタートアップらしさでもありますが一生懸命尽くしてくれていると感じた一幕でした。

他方、Gincoさんは良い意味でスタートアップには見えない一面もありました。例えば、スタートアップとのPoCについては、提供されたプロダクトやリソースが不安定だったり、大企業との対話に慣れていないといった悩みを耳にすることもあります。

しかしGincoさんの場合は、開発や検証でもたつくことがなく非常にスマートな印象を受けました。

総じて、スタートアップならではのアジリティと大手並みの丁寧さのバランス感があって、スムーズにプロジェクトを推進することができたように感じています。

4.カーボンクレジット市場とWeb3の未来

ーー本プロジェクトは事業化を見据えた実証実験段階とのことですが、今後の展望をお聞かせいただけますか?

上原氏: 2050年には温室効果ガスの排出量を地球全体で実質ゼロにする、というカーボンニュートラル達成を目標に掲げています。その実現に向けてSOMPOとしては2030年から2035年をカーボンクレジットの本格普及のマイルストーンと考えています。

それに向けて短期的には2024年から2026年にカーボンクレジットのプロトタイプを流通させていく見通しです。


能登谷氏: 今は基幹部分の技術的課題が概ね解消し、ビジネスとして成立し得る目処が立った段階と言えます。

今後は企業がカーボンクレジットを購入する場合のトランザクション処理や、カーボンクレジットの証明書を第三者に発行するための業務フローなど、オペレーション手順の解像度を上げていく必要があります。


上原氏: すでに主要業界・主要プレーヤー20社程にプレマーケティングを始めており、業界のニーズやマーケットサイズを調査しているところです。

問い合わせを頂くことも増えており、カーボンクレジットのニーズが年々高まっていることを肌で感じています。

ーーカーボンクレジットのニーズは今後どのように拡大していくのでしょうか?

能登谷氏: 現状は業界によってニーズの違いが顕著に見られます。

例えば、航空業界ではすでにニーズが急拡大しています。しかも航空業界では求められるカーボンクレジットの条件が厳しく、その基準を満たす品質以外のカーボンクレジットは購入しても意味がありません。

このように企業が求めるカーボンクレジットの品質も業界ごとに様々なので、多様なステークホルダーと議論を重ねながら安定した供給体制を社会全体で構築していくことが重要です。

また、カーボンニュートラルに取り組む方法も多様です。Jクレジットなど既存のカーボンクレジットも選択肢ですし、炭素税を支払う方法もあれば、自助努力で排出量を減らすなどのアプローチを優先する企業もあり、スタンスはまちまちです。

その中で、ブロックチェーンを用いたデジタルネイティブなカーボンクレジットの提供価値をより深く掘り下げていく必要を感じています。

日々様々な業界のプレイヤーの思惑によって変化する業界ですので、動向を注視しつつ、様々な企業のお声を伺いながらこの2、3年で事業化の目処を見極めていくつもりです。

ーーそのために今後Gincoにはどのようなことを期待していますか?

上原氏: これからのテックカンパニーに要求されるのは、純粋な技術力だけでなくクラウドの組み合わせや要素技術のシナジーをきちんと設計し、提示できることだと思います。

例えば、Webサービスでもクラウド活用・SaaS活用が急速に進んでおり、これはWeb3においても同様でしょう。

その場合、いかに特定のチェーンや要素技術にロックインさせることなく、事業とシステムの発展的かつ持続的な成長を実現できるかという点が問われるようになります。

日々変化する業界の動向を踏まえ、その時々で最も競争力のあるシステムを提案し実装できる技術と知見こそが付加価値になると見ています。

今後も今と変わらず、多数のブロックチェーン技術と最新のトレンド、そして現場の知見を豊富に備えた、Web3業界の総合デベロッパーのような存在として長期的なプロジェクトを支えて頂ければ心強く思います。

ーーこの度は、沢山の励みになるお言葉をありがとうございました。長期を見据えカーボンクレジット分野でWeb3技術の実用化を目指すSOMPO Light Vortex様を精一杯バックアップさせて頂きます!